制作 さすらい人 2001〜
凝視する秋
    夕 焼 け

とある夕べ久しぶりに見たオペラの舞台

背景の夕焼け

オレはむしょうに その中に入りたかった

空一面の本物の夕焼けの下に立ちたいと願った

そして しかし

決してそうするまいと思った

今出かけたら

もう 決して 戻ってこないと感じたからだ
               1982.3/7
    お ち こ ぼ れ

我等が時代という感じがしなくなった

ついこの間までは 時代がいつも 自分と共にあった

十代も 二十代も・・・・・

このごろ 時代はもはや 自分のものではなくなった

静かに しかし 確かな足取りで

時代は 自分のところから去ろうとしている

生きることが 生そのものであった日々は去り

生きることをしなければならない日々の始まり

役目を終わったと思うのか このごろ

体のあちこちがストライキを始めた

もはや未来は去り

過去ばかりが 執拗に 近づいてくる
            1982.3/22
  「妻へ飛鳥へそしてまだ見ぬ子へ」へ

テレビのおかげで 井村さん あなたに会うことができました

会った途端 もう二度と会うことができないのを知り とても悲しくなりました

僕とあなたは同世代

ことによると 机を並べて授業を受けたかも知れなかったのですね

なのにあなたは 生きるごとに清らかになり 

死の予告を受けることで ますます清らかになった

死をひざに乗せながら あなたは

老人のための 身障のための リハビリのための

理想の病院を作ろうと願った

もう五年欲しいと叫び 癌と戦った

同じ三十二年を生きながら私は、

力弱く 理想を 人間愛を 小さな声でひとりごちてきました。

厚かましくも 絶望と不信のひざにゆられながら

そして あなたを知り 心打たれながら

なおも 絶望と不信と隣り合わせの理想しか持てず

そんなものありそうもないようだというリズムに乗って

おずおずと理想を掲げ

そんな自分を それなりに良くやっていると思っている情けない人間なのです

もう二度と会うことのないあなたは 私の心の主治医

ということを 言葉でしかいうことのできぬ

私という人間の心の肉腫を

私は どうしようという力もないようなのです
                  1982.2/23 
    ロ ー マ 法 皇 来 日

ローマ法皇来日

アリの町のゼノ神父との対面

泣き崩れるゼノ神父

優しくいたわる法皇

実は 長年 宝冠は ゼノ神父の上にあった

法皇は 法皇になったときからの狂言回し

世界中に無数にいるゼノ神父たち

そのことを法皇は知っているに違いない

だからこそ 各地をまわろうとなさるのだろう
                1982.2/23.
   ば ら し て し ま え ば


俺の体も ばらしてしまえば 元素

どうして俺が俺なのかわからないけど

元はといえば 元素の塊

時が来れば ひとつひとつにかえる

そしてまた 別の塊を作る材料

その日までの俺は 仮の姿

俺が俺でなくなる日まで

それまで耐えさえすれば



肩越しに ちらりと 俺の背中の荷物を見ながら

そう思うことで 多分少しでも軽くなるのではないかと期待しながら

                  198?.4/4 A.M.2:00
  な ぜ

なぜ こう早く 時がたつのか

ついさっきが夕方で今は夜中

でもまあ このくらいは許せる


しかし・・・・


なぜ こう早く時が過ぎるのか

この間30歳で

傍らに君はいた

今は40歳で僕のまわりには  誰一人いない

君は 僕の知らぬ間に

別のところに住み着いてしまった


しかし・・・・


この先も 時は過ぎるのだろうか

このまま時は 凍り付くのではないか

再び なぜと問う日が来るのだろうか

そして その日 僕はいるのだろうか

            1988/10
   


人を見るとき 相手を鏡にするまい

目の前の姿は 平面でしかない

表に見える相手の姿から 何もきめつけるまい

一緒になって泣いたり笑ったりは 本気になるものではない

虚像の裏の奥深さを考えれば

くれぐれも

鏡の前のように 自分のひげを撫でさすり

気にしいしい通勤するような真似は 決してすまい

          198?.2/23
  遺 跡

見かけと大違い

あいにくなことに 僕は 肉体が 並外れて強靭なんです

おまけに 精神も強いと来ている

胃袋など ストレスを幾ら食べても びくともしないのです

おかげで 幾らでも悲しみが入ってしまいます

たまっても たまっても たまっても たまっても

僕の体と精神の器はがっちりそびえています

でもね 器の中の心は もう とっくにひびが入り 

崩れ始めているのです

最近など 僕の中に住みついていた評論家氏までが

どこかへ逃げていってしまいました

器だけの存在になった僕は

だから 実はもう古代の遺跡みたいなものなのです

         89/8/14
  ビ デ オ テープ

ビデオテープの欠点に最近気がついた

繰り返し再生できるのがすばらしいと以前は思っていたのだが

再生する度に いつも同じドラマを繰り返すんだ

同じ心の動きなんだ

同じ音楽しか鳴らないんだ

同じ動きと葛藤なんだ

これが僕の人生なんだ ぞっとしてしまう

しかし、・・本当にそうか!?

             89/8/15

    ショーウインドウ


いくさの中継と大リーグの話が
一緒に並ぶ 21世紀のショーウインドウ
その中にいるのに その外からのぞく 奇妙なショーウインドウ

僕はその前を ゆっくり歩けない

いくさって 負けた方は たくさん人が殺されるんだろう
いくさって 勝った方は たくさん人を殺すんだろう

殺された人には 子どもがいて 妻がいて 夫がいて
殺した相手には 子どもがいて 妻がいて 夫がいて
負けても 勝っても 悲しみしか残らない  
それなのに なぜ?

僕の単純な頭は 訳が分からなくなる

いらっしゃい いらっしゃい
テロが爆撃で 爆撃がテロで イチロウが首位打者で 狂牛病
何でもありますぜ

                    2001.10.9.
     張り子の虎

張り子の虎は 精一杯ほえた。

張り子の虎は 淋しかった。

自らの存在が 空っぽのように感じた。

張り子の虎は 精一杯ほえた。

牙をむき 思いっきり噛みついた。

しかし、それは 何の威嚇も与えなかった。

誰も気がつきさえしなかった。

張り子の虎は 力無く 自分の尾を追いかけた。

が、それも長くは続かなかった。

やがて 張り子の虎は動かなくなった。

そして、ただの張り子になった。

 
           
2002.6.7.

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