制作 さすらい人
「未完成交響楽」(原題「なれを呼ぶ我が歌」) 1934年 88分

                          ツィネ・アリアンツ製作 オーストリア映画 
  
キャスト   シューベルト         ハンス・ヤーライ
           カロリーネ          マルタ・エゲルト
     監督   ウィリ・ホルスト  脚本  ワルター・ライシュ   撮影   フランツ・プラナー
     演奏   ウィーン・フイルハーモニー管弦楽団    ウィーン少年合唱団
           ウィーン国立オペラ合唱団          キウラ・ホルファート・ジプシー楽団
                       
                                         レーザーディスク(パイオニア) SF068−0021

  
〈コメント〉

 戦前の有名な映画。「わが恋の終わらざるごとく、この曲も終わらざるべし。」と完成していた交響曲を破り捨て、「未完成」にしてしまったという話は、ドラマとして面白いし、映画としても良くできていると思う。麦畑に中の逢い引きシーンや、ジプシー娘のようにしてシューベルトの前に現れるカロリーネ姫のシーンなど印象的な場面が多い。 
 シューベルトが2回ウィーンを離れ、エステルハージ伯爵の別荘(ハンガリー)に音楽の家庭教師として出かけて、カロリーネ姫に音楽を教えたのは本当の話。ただ、当時は、家庭教師も奉公人扱いで、食事も台所でとったという話だから、シューベルトとカロリーネ姫の恋愛は難しかっただろう。身分の壁が厳然としてあった。日本で同時代といえば江戸時代で、小林一茶などのいた頃だから、現代とは同じには論じられない。ただ、この2回の出張は、音楽的には豊かな実りをもたらしたと思う。ハンガリー風ディベルティメント他。
 歴史をなぞるとおもしろみのない結果になるのだが、もしかしたら?と想像してみるのも楽しい。記録に残らなかったところで何かあったのでは・・・・。控えめなシューベルトが何も語らなかったとしても心の中ではそれに近い感情もあったかも、と考えてみることは出来る。シューベルトがなくなる1828年(31才)に作曲した連弾のための幻想曲ニ短調はカロリーネに捧げられている。この曲は、古今の連弾曲の中でも屈指の傑作の一つと言われている。カロリーネへの秘めたる思いが原動力になったのでは・・・・・。勿論この推測はまったくの想像で、「ローマの休日」を実話のように思うこととたいした違いはない。


 実際のシューベルトのエステルハージー伯爵家(ゼレス)滞在

  1回目  1818年夏  シューベルト21才  カロリーネ 13才

  2回目  1824年夏  シューベルト27才  カロリーネ 19才



         右の絵はカロリーネの肖像  
         ・アントン・ヘーニッシュによる水彩(1837年)・・右側
         ・テルチャー筆                   ・・左側

 

「シューベルト 未完の旅」
   (原題「フランツ・シューベルト2楽章の人生」) 1953  118分


                                  製作 ウィーンフィルム、ペータフィルム

キャスト   シューベルト                ハインリッヒ・シュヴァイガー
        テレーゼ・グローヴ            アグラーヤ・シュミット
        モーリッツ・フォン・シュビント      ルイス・ゾルダン
        ヨハン・マイフォーファー         エルヴィン・シュトラール
        フランツ・ショーバー            Rolf     Wanka
        フォーグル                 Hints    Fabricius
        シューベルトの父             ハンス・ティーミヒ
        フェルディナント・シューベルト(兄)  Karl     Mittner
        ネッティ                   Anni    Korin
                      他
監督     ヴァルター・コルム=ヴェルテー
台本     ヴァルター・コルム=ヴェルテー&カール・メルツ
撮影     ハンス・ケーニヒ           演奏 ウィーン交響楽団


                  
ビデオ(VHS) DMVB−44  ドリームライフコーポレーション
                               

        
     作品名              制作年     製作国

1.「未完成交響楽」           1934     オーストリア              88分
2.「未完の旅」              1953     オーストリア             118分
3.「シューベルト物語」         1970     イタリア                 90分
4.「夜曲」                 1988     フランス/オスとリア合作     177分
5.「未完成交響楽」リメイク版     1959
6.「Bloossom Time」         1934
7.「三人娘の家」                 ?
        ※5〜7については詳しいことはわかりません。また、カール・ベームの息子がシューベルトに扮した映画についても
          よくわかりません。ご存じの方がいたら教えて頂けませんか。
   映画の物語 

 ウィーンのエステルハージー伯爵のサロンで、ピアノに向かったシューベルトが新しい交響曲を弾いている。3楽章が始まったとき、突然カロリーネ姫が大声で笑い出して演奏は中断される。
 シューベルトを傷つけたことに心を痛めたカロリーネは、夏のゼレス(現スロヴァキア)行きで、シューベルトを家庭教師にすることを父親に頼む。このゼレスの場面は美しい。ジプシー娘のようにして踊るカロリーネは生き生きしていて実に美しい。ふたりは恋に陥る。二人の親密な仲を知ったエステルハージー伯爵は、急遽カロリーネを貴族に嫁がせることにする。
 カロリーネの結婚式の日、自らの心の中を隠したシューベルトは、お祝いの席で、完成していた交響曲を再び弾き始める。そして、3楽章の演奏が始まったとき、再びカロリーネによって中断され。悲しみに耐えきれなくなって気を失ってしまったのだ。
 こうして、孤独の淵に取り残されたシューベルトは、我が手で、完成していた交響曲のスコアの中断されたところからを先を破り捨てる。冒頭に書いたシューベルトのセリフ「わが恋の終わらざるごとく、この曲も終わらざるなり」のところである。
 戦前の名画のひとつとされ、日本でもヒットしたというのが分かるような気がする。よくまとまった作品。カメラワークの見事さも印象に残る。私より年輩の方で、この映画と「未完成交響楽」という名前をしっている方がかなりいたのが不思議だったが、見てなるほどと思った。
 シューベルト17才から31才までを扱った映画。発表当時一種のドキュメンタリのような評価があったそうである。台本を書くに当たって、実際の資料を研究し、大道具から小道具に至るまでシューベルトが生きていた当時を表現するように気を配ったそうである。
 キャストを見るとそのことがわかる。ここには、カロリーネのような貴族の娘ではなく、実際にシューベルトが好きだったとも言われる絹織物業者の娘テレーゼが登場する。17才のシューベルトが作曲したミサ曲第1番ヘ長調がリヒテンタール教会で演奏されたとき、このテレーゼがソプラノのパートを歌っている。この年の秋シューベルトが、父親の経営する学校に助教師として勤め始めたことや、18才ごろ最もたくさんの数の曲を作っているということをテレーゼに結びつけて考える人もいる。もっとも、3年後にテレーゼはパン屋に嫁いでしまったのだが。
 キャストをみると、シューベルトの伝記でおなじみの仲間たちの名前がでてくることに気がつく。「シューベルティアーデ」の面々がいる。画家シュビント(このぺージの背景の絵は彼の後の作品。)、一時シューベルトと同居したこともある詩人マイフォーファー、シューベルトに度々援助の手を手をさしのべた遊び人ショーバー(後年フランツ・リストの秘書も務めている。)、シューベルト歌手第1号のフォーグル、仲の良かった兄フェルディナント等々。
 この映画は、「未完成交響楽」のおとぎ話の世界とまったくちがって、実際のシューベルトの日常から出発した作品のようである。
映画にでてくる人たちの実際の肖像
テレーゼ  
      ホルパイン筆
シュビント 自画像1822
ショーバー
   クーベルヴィザー筆
フォーグル
   クーベルヴィザー筆
マイアホーファー
  シュビント筆
兄 フェルディナント
   
    父
   

シューベルト物語 (原題「楽園なき天使」)  1970  90分

                                         イタリア モンディアル・フィルム

キャスト      シューベルト      アル・バーノ
           アンナ          ロミナ・パワー
           マルタ          アゴスティーナ・ベルリ
           ルードウィッヒ     ポール・ミュラー

監督        エットレ・M・フィザロッティ   
脚本        ジョバンニ・グリマルディ     撮影  マリオ・カプリオッティ
夜曲 シューベルト愛の鼓動」(原題「ノットゥルノ」)  1988  177分


フランス/オーストリア合作
STAR PRODUCTION 著作
 カロリーネがアンナになり、シューベルトに思いを寄せる質屋の娘マルタがいたりと、細かいところは違っているが、戦前の「未完成交響楽」のほぼ完全なリメイク版。旧作をなぞるように話が進行していく。アンナとシューベルトが愛し合うようになり、あんなの婚約者の騎士ルードウィッヒと決闘をする羽目になる。その騎士は、密通がばれて決闘になった相手を冷酷に殺してしまうような男として描かれている。決闘でシューベルトの命を助けてもらうために、アンナはルードウィッヒとの結婚を承諾する。何も知らないでウィーンの戻ったシューベルトは音楽会で成功を納めるが、アンナの別れの手紙が届く。泣き暮らすマリアの姿をみかねた妹のイリナから、「姉さんは、シューベルト先生が好き。」という手紙が届き、シューベルトが駆けつけたときには、既に結婚式は終わっている。言葉もなく見つめ合う二人。ピアノに向かって交響曲」を弾き始めたシューベルトは、アンナの嗚咽で中断される。譜面を引きちぎり黙って立ち去るシューベルト。涙で見送るアンナ・・・・・。
 リメイク版だが、本家と比べてずいぶんお粗末な印象。シューベルトは映画の中で3枚目であり、人間として生きていないような気がする。思いを胸に秘めたまま、シューベルトをそっと助ける質屋の店員マルタがけなげ。
 キャストには話題性があった。シューベルト役のアル・バーノは、当時のイタリアのソール・カンツォーネ歌手件作曲家兼作曲家兼アレンジャー。また、ロミマ・パワーは、タイロン・パワーの娘で、このふたりは、実生活では、映画と違って結婚している。二人は、映画の中で実際に歌っている。
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キャスト       シューベルト     ウド・ザメル
            ショーバー      ダニエル・オルブリルスキ
            カエタン        ヴォイテク・プショニャク
            シューベルトの父  トラウゴット・プーレ
            アンナ         マヤ・コモロフスカ
            シュヴイント      ガブリエル・バリリ
            マグダレーナ     テレーゼ・アフォクルタ
            ヨゼファ(異母妹)   ミヒャエラ・ヴィトハルム
監督・脚本     フリッツ・レーナー  撮影  ゲルノット・ロル  美術 アラン・スタルスキ

                  ビデオ   CRVC−1002 SUNCROWN
 これまでご紹介した映画とはスタンスの全く違った作品です。まず、映画の中のシューベルトの表情を見てください。
 ここには、上機嫌なときのシューベルトは見られません。終始
愛に飢え、苦悩し、孤独の淵に沈んだシューベルトの姿が描か
れています。25才〜31才の6年間の物語です。
 映画は1828年(死んだ年)に新しい住居に越してきたところ
から始まり、すぐに25才の時に戻ります。入院している病院の
場面。退院。かつら。友人たちとのピクニックさえもその気分か
らは逃れられません。友人が、シューベルトに内緒で、お金を
払って女性をシューベルトに近づけさせるシーンまであります。
孤独に悩むシューベルトの傷を増やすばかりなのですが。
 苦悩といっても、音楽上でのことではありません。人間シューベルトの、日常の中での孤独感です。「僕は、音楽でしか認められ
ないのか。」というセリフまで出てきます。
 こんな内容ですから、「未完成交響楽」のカロリーネのような強力なヒロインは登場する余地はありません。金で雇われた女性、
むかいのビルの窓の女性、ただの遊び仲間、娼婦・・・・・。最後に越してきた住居で身の回りの世話をするのが異母妹のヨゼファ
という少女。この少女は、作曲しているときちょろちょろしたり、音を立てたりと、シューベルトをいらだたせることもしばしばなので
すが・・・・・。死の床で、神父を拒否する場面がありましたが、思想信条というより、生への執着なのでしょう。(当時のウィーンの
体制化では、カトリックを拒否したら墓地にも入れなかったはずです。モーツァルトが共同墓地に葬られて埋葬地がわからなくなっ
たのは、フリーメイソンだったからとも言われています。)同じ意味で、死にかけてベッドで暴れるシューベルトを押さえつける場面
も生きたいという表現でしょうか。
 ネコや、インク壺に落ちこむ虫などのリアルな描写が随所に出てきます。花火が夜空に広がるという場面は華やかですが、シュ
ーベルトはその華やかな光の下で深く傷ついているのです。結局、ラブ・ロマンスの要素の全くない、悩み続けるシューベルトの
人間ドラマです。それなりに力の入った映画だと思いますが、「未完成交響楽」のファンや「鱒」のシューベルトを愛する人には不
人気だったかもしれません。シューベルトの作品でいったら、最後の年に作られたピアノソナタ変ロ長調やイ長調の2楽章の世界
に近いかもしれません。
 最後に、シューベルトの文章の中の一節を紹介します。あるいは、この映画の世界に近いかもしれないので・・・・。

「ぼくが愛を歌おうとしたら、愛は苦しみになった。そこで苦しみを歌おうとしたら、苦しみは愛になった。こうして、愛と痛みが
ぼくをまっぷたつに引き裂いた。」 (1822年7月3日「私の夢」から)
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