映画の棚

制作 さすらい人 2001〜
エル・ニド
1980年スペイン    監督      ハイメ・デ・アルミニャン
              主なキャスト  アナ・トレント   エクトル・アルテリオ   
                        ルイス・ポリティス     他
      
1981年アカデミー外国映画賞ノネネート
モントリオール映画祭主演女優賞受賞
     映画に出てくる音楽

ハイドン    オラトリオ「天地創造」
カントルーブ  「オーヴェルニュの歌」から
            「捨てられた女」
 ビクトル・エリセ監督の第一作「みつばちのささやき」(1973)で起用されて評判になったアナ・トレントの出演作である。13才というから、「みつばちのささやき」から7年たっている。ファンが多いということだが、私はあまり惹かれない。確かに、神秘的な瞳というのはわかるが、どこか酷薄な印象がある。もしかしたら、カルメンの少女時代はこんな感じだったかも・・・。「シベールの日曜日」のパトリシア・ゴッジの様な愛くるしさは感じられない。
 そういえば、物語は「シベール」と共通するところがある。大人と少女、二つの孤独な魂の邂逅と悲劇的な結末という点で。しかし、心に深く食い込んでくる力では、「シベールの日曜日」には及ばない。面白いが、物語の域で終わってしまっているという気がする。
 また、物語の背景にスペイン内線の影が見え隠れしているところは、「エル・スール」とも共通している。どちらにも出てくる神父(教会)と、それに対する主人公の態度に
ほのめかされている。スペイン内線で、共和国に反乱を起こして独裁政権をうち立てた右翼フランコ政権の有力な支持基盤がカトリック教会勢力だったということを想起すれば、「エル・スール」の父親が教会に足を向けようとしなかったことや、この映画のアレハンドロと親友エラーリォ神父との会話の意味が分かってくる。ふたりは、傷ついた孤独な魂を抱え続けて生きている。もっとも、「エル・スール」のどこもすきのない映画作りにはかなわない。また、各画面の美しさも及ばない。「シベール」や「エル・スール」は、何も押しつけない物語でありながら、はるかにリアルで、いつまでも心に残るのである。
 とはいえ、この映画もそれなりに面白い佳作ではあると思う。たびたび出てくるハイドンの音楽、アレハンドロの死を見送る「オーベルニュの歌」中の「捨てられた女」の悲痛な響き、アレハンドロを悲劇へと誘う少女が初めて登場するするとき「マクベス」を演じていること、大がかりなオーディオに囲まれ、コンピュータ相手のチェスをしているアレハンドロの後ろから立ち上ってくる何とも言えない孤独感など、見るべきところも多い。
 そういえば、この「映画の棚」で最初に取り上げた「シベールの日曜日」「エル・スール」「エル・ニド」の3作品はどれも、孤独な魂が愛に飢えるように彷徨し、静かに悲劇に到達する物語である。

             〈物 語〉