映画の棚

制作 さすらい人 2001〜
シベールの日曜日
1962年フランス    監督      セルジュ・ブールギニョン  撮影  アンリ・ドカエ
115分 白黒      主なキャスト  ハーディ・クリューガー   パトリシア・ゴッジ   
                        ニコール・クールセル     他
         
      
 この映画を見たのは、高校生の頃だったと記憶している。本気で映画にのめり込むきっかけになったという意味でも、詩的 な映像に惹かれるようになった原点という意味でもわすれられない作品である。今でも、私の映画ベストテンの上位に位置している。何回映画館に通ったか覚えていないほどである。原題「ビル・ダヴレイの日曜日」

         〈も の が た り〉

 冒頭第一次インドシナ戦争のシーン(多分)。パイロットのピエールは、恐怖の表情を浮かべたベトナムの少女らしい子どもの姿を目にしたとたん撃墜される。
 記憶を失った31才のピエールは、看護婦のマドレーヌと暮らしている。数少ない理解者の芸術家カルロスの仕事を手伝ったりしている。ある夜、父親に修道院の寄宿舎に預けられ置き去りにされた12才の少女と遭遇する。
 日曜日、寄宿舎に出かけたピエールは、面会に来た父親と間違えられる。それから、日曜ごとのピエールと少女の交流が続く。ふたりがいつも散歩する湖の景色が本当に美しい。途中で出合う乗馬した男を見て、少女がカッコイイと言うシーンがある。実はその男が監督のブールギニョンだという話をどこかで聞いたことがある。本当だとしたらちょっとしたユーモア。
 少女は、フランソワーズと呼ばれているが、ギリシアの女神の名がキリスト教的でないというので修道院で変えられたのだと言う。そして、教会の屋根の風見鶏を取ってくれたら本当の名を教えてあげるとピエールに告げる。ところが、ピエールは記憶を失ったときの後遺症か、高いところにあがるとめまいに襲われるのである。
 二人の交流はほほえましいシーンの連続。エールは子どものような純真な心の持ち主で、二人の会話は、いつも、少女がリードしている。「私がお母さんのかわりになってあげる。」「私が18になったら、あなたはまだ37だから結婚しましょう・・・」といった会話が楽しいが、二人の交流は、子どものような純真なもの。あとで事情を知って不安を訴えるマドレーヌに、芸術家カルロスが、理解を示す。
 戦争で過去を失った男と、家族に捨てられた少女の、孤独な者同士の魂のふれあいというのが一番近いと思う。
 クリスマスの夜を二人は一緒に過ごす。カルロスの家からツリーを持ち出したピエールと、寄宿舎を抜け出した少女の、二人だけのささやかで暖かいクリスマスの晩。いたずらっぽくほほえんだ少女がピエールに渡した小箱。その中の紙切れに、一言
「Cybele」と書かれている。初めてピエールに明かした名前シベール。これが、少女の心からのプレゼントだった。ピエールは、「あとで僕もプレゼントをあげるよ。」と秘密めかした笑顔で答える。
 そのころ、不安に駆られたマドレーヌが同僚の医者に相談したことで修道院に連絡がとんて゛大騒ぎになり、警察が少女の行方をさがして捜索を開始していた。カルロスが「軽はずみなことを・・・」といったのも後の祭りだった。
 以前の約束を覚えていたピエールは、少女が眠っている間にナイフを片手に教会の屋根によじ登って、風見鶏を取り外す。
その時、突然ピエールは、以前自分を悩ませていためまいなどの発作が治っていることに気がつく。そして、ナイフと風見鶏を手に、少女シベールの所へ戻りかけたとき、警官に発見され、少女に害意を持って近づく変質者と思われて射殺されてしまう。警官の報告のセリフ「危ないところでした・・・」マドレーヌやカルロス達が駆けつけたときは全てが終わった後。
 警官達に起こされ「君の名前は?」と聞かれたシベールが、あたりの状況を見て、「もう、私には名前なんかないの。誰でもなくなったの!」と泣きながら叫ぶラストには胸をかきむしられる。そして、終始静かだった映画で最後のシベールの叫びにいきなりかぶさってくる音楽が「miserere nobis」(我らを哀れみたまえ)なのである。

 この映画が訴えたかったことは何だろうと高校生の頃は何度も考えたものである。当時は色々な解釈をした。
 ・冒頭のインドシナ戦争でベトナムの少女を殺した
  (と思いこんだ)ことから始まっていることで、一
  種の反戦映画。
 ・少女を殺した(と思いこんだ)ピエールが、シベー
  ルという薄幸の少女によって自己を回復していく
  物語。
 ・マドレーヌと同僚達に象徴される普通の人たちと
  シベール、ピエールという疎外された人たちを対
  比した物語。
 ・純真で無垢な魂が現実に入れられないという寓
  話。
 ・二つの孤独な魂の邂逅の物語。
 ・教会(修道院)と異教的なものについての何か。
  この解釈については、教会の風見鶏を取る話、
  シベールというギリシアの女神の名前、悲劇の
  後に突然降ってくる教会音楽の一節 「我らを哀
  れみたまえ」など材料が多くて魅力的だった。
 結局の所、見る人それぞれの感性に任されているということだろう。 
1962年度アカデミー賞外国映画賞
ベネチア映画祭特別表彰
 この映画のヒットの要因の一つが、主役の一人パトリシア・ゴッジという少女の愛くるしさだという。1950年生まれという。この映画の後「カモメの城」という映画に出たという話を聞いた記憶があるが、くわしいことはわからない。ゾラの原作による「居酒屋」というルネ・クレマンの作品に出たシャンタル・ゴッジという子役の妹ということである。
 監督のブールギニョンについても、この最初の映画の後の映画作品の評判を聞かない。 パトリシア・ゴッジ、ブールギニョンについて何かご存じの方がいらっしゃったら教えて下さい。
ソフト 東芝EMI EK138−3004H
    VHS
    このビデオは現在出ていません。
     ニュース!! 2010年6月26日 DVD発売 紀伊国屋


  映画に使われている音楽

 
アルビノーニ    アダージォ

バッハ     J.S.バッハカンタータ第147番
         第10曲コラール
         (「主よ、人の望みの喜びよ」)

シャルパンティエ  クリスマス・ミサから

ヘンデル     オルガンとオーケストラの
           ためのコンチェルト10th?

レスピーギ     古風な舞曲?



 エンドクレジットでは上のようになっているが、?の曲については、どの場面で使われたか記憶にない。カット版だったのかな。
追加情報>2002.1.26.

 「シベールの日曜日」のパトリシア・ゴッジ出演の映画「かもめの城」について、プレーリードッグ様、
堀尾様から貴重な情報をいただきました。「シベールの日曜日」のパトリシア・ゴッジファンのみなさ
まにとってはうれしい情報ではないかと思います。

◆プレーリードッグ様
************** 引用開始 *************
1974年9月11日(だったと思う)NHKで「シベール」を見ました。その2ヵ
月後「かもめの城」を民放で見ました。ストーリーは・・・・
囚人護送車が事故を起こし、若い囚人が逃げ出し、海辺の一軒家に逃げ込む。その家
には初老の男と少し知恵おくれの少女(ゴッチ)が住んでいたが、二人は男の素性を
知りつつ、納屋にかくまう。やがて少女は男に恋をし、二人は黙って町へ出て行く。
しかし
持金はすぐに底をつき(少女がお金を溝に落として追いかけるシーンが印象的)、二
人は元の家に戻る。やがて警察に知れ、男は追われ崖から海に飛び込むが、引き潮の
ため岩場に落ち絶命する。・・・・
数年後、大学の映画サークルに入ると、皆おなじ日にこの2本の映画を見ていたこと
が分り、おかしかった思い出があります。パトリシア ゴッチの名前があったから見
たのですが、「シベール」に劣らず、切ない映画でした。見たのはこれ一回だけで
す。
byプレーリードッグ
****************** 引用終わり ***************


◆堀尾様
************** 引用開始 **********
「かもめの城」の新聞映画評です。おそらく1966年の東京新聞だと思います。
ご参考までに‥

〈ことしの洋画から〉
逃亡者と乙女の初恋「かもめの城」(イギリス)各国から多彩な配役
 フランス映画「シベールの日曜日」でデビューした可憐な少女パトリシア・ゴッジ
が久しぶりにお目見えする。この三年の間に、見違えるように成長して、すっかり娘
らしくなった彼女にふさわしく、十六歳の乙女の初恋を主題にした映画だ。ゴッジの
ふんする乙女はひどく孤独で、世の中の汚れを知らない。彼女はカカシに洋服を着せ
て、愛をうち明けたりしていたが、ある日、罪を犯して警察に追われ逃げ込んできた
青年(ディーン・ストックウェル)を愛するようになってから、現実の厳しさを知ら
されてゆく。舞台は北フランス、ブルターニュの海岸。その暗い荒涼とした風景が、
ひたむきな愛の美しさと、その夢が破れてゆく悲しみをうたいあげたストーリーと一
体になって、きびしい詩情を生んでいる。監督は、英国のジョン・ギラーミン、いま
までは、もっぱらアクションものを手がけてきた人。そのほかのおもなスタッフはす
べてフランスの映画人、そして出演者は、ゴッジ(フランス)、ストックウェル、メ
ルビン・ダグラス(アメリカ)、グンネル・リンドフロム(ス‥‥‥以下不明)窓辺
に来たかもめに話しかけるパトリシア・ゴッジの写真。

****************** 引用終わり ***************

プレーリードッグ様、堀尾様、貴重な情報をありがとうございました。映画「かもめの城」のことがだいぶわかって参りました。どこかで見る機会があったらと願っています。
パトリシア・ゴッジ(Patricia Gozzi)略歴

 1950年、イタリア北部生まれ。芝居好きのイタリア人の父、フランス人の母の影響を受け、幼い頃から演劇を身近に感じて育つ。3人姉妹の次女。その後パリに移り住む。
 姉のシャンタル・ゴッジがルネ・クレマン監督の「居酒屋」に子役として出演。パトリシアもスクリーン・テストを受け、9歳でギャング映画『特赦情報』でデビュー。数本をへて、13歳のときセルジュ・ブールギニョン監督の長編第1作「シベールの日曜日」で、12歳の少女シベール役を主演。その愛らしい演技で多くのゴッジファンを生む。

 1962年「シベールの日曜日」(仏) 1964年「かもめの城」(英) 1968年『立ち廻り』に出演。

追加情報 2002.6.23.

Biography
Brief facts:
Birth Date: 12 April 1950
Sign of the Zodiac: Aries
Height: 160 cm
Eyes: Brown
Hair: Brown
Father: Yves Gozzi
Mother: Gylberte
Sisters: Three including Marielle (actress)
Son: Benoit Sauvage (born ca. 1980, consultant)
Daughter: Celia Sauvage (born ca. 1983, undergraduate
student in law)
Nationality: French
Relationships: Married to Jack (french business man, ca.
1969 - ca.1979). Married to Michael Sauvage
(1986-current).

Biographical Notes:
Patricia stopped acting when she was 20 years old, for
many reasons, mainly because she got married. She works
now as a manager in a english firm. Currently she works
and lives in Paris.

Filmography
1968. Le Grabuge ("Hung Up"): Dina
1965. Rapture: Agnes
1962. Les Dimanches de ville d'Avray ("Cybele",
"Cybèle ou les dimanches de ville d'Avray",
"Sundays and Cybele"): Françoise/Cybèle
1961. Léon Morin, prêtre ("The Forgiven
Sinner", "Leon Morin prete", "Leon Morin, Priest"): France

1960. Quai Notre-Dame
映画「かもめの城」「Hung up」資料

追加情報2>2002.6.10.
   追加情報3>2002.6.23.

 Rumtaleさんから、「かもめの城」「Hung up」の貴重な資料を提供して頂きました。ご厚意を心から感謝いたします。
「シベールの日曜日」のパトリシア・ゴッジのファンの方にとっては、何よりもうれしい情報です。本当にあり
がとうございました。

お願い 「かもめの城」「Hung up」のビデオ、LD、DVD等がどこかで出ているかご存じの方がいらっしゃったら、国内外版を問い
       ませんので、教えて頂けませんか。
「HUNG UP」
ニュース!! 2010年6月26日 DVD発売 紀伊国屋